事業の概要

事業の目的

  • 今日の農業生産には、食品安全や環境保全など、さまざまな取り組みが求められている。同時に、農業経営では規模拡大や多品目化、従業員数の増加が進展しており、経営者が管理すべき点はますます複雑化しおり、農業経営には、生産工程を適切に管理し、経営改善を図ることが重要な課題となっている。このような課題を解決する上で、農業生産活動における各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を基にした農業生産工程管理(GAP:Good Agricultural Practice)を導入することは有効な解決策であると考えられる。
  • 我が国においてGAPの普及は年々進展しているものの、次のような問題点も見受けられる。第一に、国内には様々なGAPが存在し、その取り組み水準のばらつきが大きいということである。第二に、記帳等負担感のみが増し、GAP導入が必ずしも経営改善につながっていないという生産者の評価も少なくない。
  • 本事業では、我が国におけるGAPの更なる普及の拡大とGAPの取り組み水準の引き上げに資することを目的に、農林水産省が定める「GAPの共通基盤に関するガイドライン」に則したGAPの導入事例を対象として、GAPの取り組み内容とGAP導入による経営改善効果、さらに改善効果をより発揮させるための具体的な取り組みについて調査を行った。
  • また、我が国農業の輸出戦略実現に向けて、海外におけるGAPの導入実態や活用状況、さらに輸出に際しての相手先からのGAPに対する要望について、海外での現地調査と輸出に取り組んでいる国内農業者への聞き取り調査を行った。

調査内容

  1. 国内調査
    • 1) 国内GAP導入事例調査
      • 国内におけるGAP導入先進事例調査においては、具体的な工程管理(PDCAサイクル、各種データの収集・活用)の手順や、その運用におけるマネジメント体制(役割分担、権限委譲)、さらにGAP導入による経営改善効果などについて聞き取り調査を実施する。
      • 営農類型ごとに、事例間で、GAPに対する取り組み内容とGAP導入による経営改善効果を比較分析し、経営改善効果をより発揮させるための具体的な取り組みを解明する。また、輸出を行っている事例においては、これらに加えて輸出相手先からのGAPに関する要望などについても聞き取り調査を行う。
    • 2) 国内流通業者調査
      • 国内の食品・流通事業者への調査においては、農業者との取引要件におけるGAPの位置付けや、GAP導入農場で生産された農産物に対するニーズ、および消費者や取引先のGAPに対する認識などについて聞き取り調査を実施する。
  2. 海外調査
      • 海外におけるGAPの導入実態調査においては、特にGLOBAGAPに焦点を当て、農業生産者や政府機関等に対し聞き取り調査を実施し、現地でのGAPの普及状況やGAP導入に対する政府の支援状況、農業者のGAPの導入目的と活用状況などを解明する。さらに、とくにGLOBAGAPに焦点を当てながら、食品流通業者などに対し聞き取り調査を実施し、流通業者のGAPに対する意識や、日本の農産物に対する評価などを解明する。

調査事例

  1. 国内調査
    • 1) 国内GAP導入事例調査
      • 下記①~③の点に留意しながら、12の調査対象事例を選定した。
      • ①農林水産省「GAPの共通基盤に関するガイドライン」を参考にしたGAPの導入事例であること。
      • ②産地・都道府県GAP事例、JGAP事例、GLOBALG.A.P事例など、GAPの策定主体に偏りがないこと。
      • ③水稲作経営、野菜作経営、畑作経営、果樹作経営の4営農類型を網羅すること。
      • 【水稲作】
        • 事例A(産地・都道府県GAP、総合農協、 秋田県)
        • 事例B(JGAP、法人経営、新潟県)
        • 事例C(GLOBALG.A.P.、総合農協、山形県)
      • 【野菜作】
        • 事例D(産地・都道府県GAP、法人経営、島根県)
        • 事例E(JGAP、法人経営、岩手県)
        • 事例F(GLOBALG.A.P.、法人経営、熊本県)
      • 【畑作(茶)】
        • 事例G(産地・都道府県GAP、専門農協、三重県)
        • 事例H(JGAP、生産組合、鹿児島県)
        • 事例I(GLOBALG.A.P.、法人経営、静岡県)
      • 【果樹作】
        • 事例J(産地・都道府県GAP、産地、富山県)
        • 事例K(JGAP、専門農協、愛媛県)
        • 事例L(JGAP、出荷組合、青森県)
      • ※果樹作は、GLOBALG.A.P.取得事例がないため、JGAP2事例を調査した。
    • 2) 国内流通業者調査
      • GAP認証農産物を扱う以下の流通業者を調査事例として選定した。
        • 株式会社M(主に米穀類の卸売)
        • 株式会社N(主に青果の卸売、加工、販売)
        • 株式会社O(日本茶の加工、販売)
  2. 海外調査
      • GLOBALG.A.P.(及びその同等性認証を取得するGAP)の普及が進むEU(イタリア、フランス)、およびアジア(タイ)において、以下の調査を実施した。
      • 【イタリア】
        • 農林政策省(GAPの普及・支援状況)
        • PATFRUT(GAPの導入実態、農協(果樹作))
      • 【フランス】
        • Terres de Saint-Malo(GAPの導入実態、農協(野菜作))
        • Jean L’Hourre(GAP農産物の流通実態、青果卸業者)
      • 【タイ】
        • 農業協同組合省農産・食品規格基準局(QGAPの普及・支援状況)
        • Kasetsart大学(ThaiGAPの普及・支援状況)