- PATFRUTは、GLOBAL.G.A.P.団体認証を取得するイタリアの農業協同組合である。主にナシやリンゴを北欧や中欧の大手流通業者に輸出しており、GLOBALG.A.P.はその取引条件としての性格が強い。PATFRUTでは、継続的な取引のため、組合が主導的立場に立ちながら組合員への導入支援を図ってきた。また、GLOBALG.A.P.以外にもなどさまざまな認証を取得し、流通ニーズに対応をしている。
1) 地域及び組織の概要
- PATFRUTはイタリアのエミリア=ロマーニャ州フェラーラ県に位置する協同組合組織である。フェラーラ県は、ポー川下流デルタ地帯の肥沃な土壌条件に恵まれ、イタリアでも有数の農業地帯として、コムギやビートといった畑作物のほか、リンゴやナシなどの果樹生産が盛んに行なわれている。
- PATFRUTの組合員は約1,000戸(ほとんどが家族経営)で、うち約4割が果樹作経営である。主な作物は、ナシ、リンゴ、ジャガイモ、タマネギ、加工用トマトなどで、平均面積は耕種経営で約15ha、果樹経営で約4haである。GLOBALG.A.P.の団体認証を取得する生産者は、ナシ生産者とリンゴ生産者が中心で、それら栽培面積は地域の約半分をカバーしている。
- ナシやリンゴの主な販売先は、約4割がCOOP(イタリア生協)などの国内大手流通向けで、約2割がジュースやジャムなどの加工に仕向けられる。また、残り4割は北欧(KESKO)、ドイツ(EDEKA)、オーストリア(SPAR)、イギリス(TESCO、ASDA)等の国外大手流通に向けで、主にGLOBALG.A.P.認証生産者の農産物が取り扱われる。
図4-2-1 フェラーラ県
表4-2-1 PATFRUTの概要
図4-2-2 PATFRUTの選果場
図4-2-3 選果されたリンゴ
2) GAPの導入と運営体制
- PATFRUTは、2002年よりGLOBALG.A.P.取得の準備を進め、2004年に25農場で団体認証を取得した。
- GLOBALG.A.P.導入のきっかけは、国外大手流通クライアントからの要望である。欧州の野菜生産基地であるイタリアにとって、ドイツやイギリスといった北欧、中欧への青果物輸出は欠かせない。しかも、それら国々の流通業者は規模が大きく、かつ欧州全域から青果物を調達していることもあり、輸出を行う産地は、継続的な取引のために、それらが定めるGLOBALG.A.P.に対応しなければならない状況にあった。導入当初は、クライアントとの間で有利販売につながるとの話もあったが、現在は取引するための最低条件となっている。なお、イタリア国内の流通については、大手のCOOPやCONARDがGLOBALG.A.P.よりも以前に独自の品質基準を確立しており、GLOBALG.A.P.が必ずしも要求される状況にはない。しかし、イタリア国内においても徐々にGLOBALG.A.P.を要請する風潮が現れていると言う。
- PATFRUTでは、GLOBALG.A.P.以外に、ISO9001、ISO14001、BRC(British Retail Consortium)、IFS(International Food Standard)、EMAS(Eco-Management Audit Scheme)、有機の認証を取得している。これら認証も、農産物を販売する上で、産地になくてはならないものとなっている(ただし、ISO14001とEMASは、組合が主体的に取得したもの)。しかし、そのほとんどは組合自体や選果場に関するものであり、生産者が直接的に関与するものは有機認証のみであった。そのため、GLOBALG.A.P.の導入にあたっては、生産者の理解と協力を得ることが最も重要な課題であった。組合は主導的立場をとりながら、幾度となく会合を開き生産者の理解を促した。また、生産者はEUのクロスコンプライアンスに対応していたが、GLOBALG.A.P.で追加的に求められる記帳等は生産者にとって負担であったため、最初は、受容することが容易な比較的規模の大きい生産者を中心に導入を試みた。さらに、生産者の負担を軽減するため、組合はGLOBALG.A.P.の基準をできる限りシンプルに生産者に提案(①クロスコンプライアンスでカバーされていること、カバーされていないことの整理、②帳票類の雛形作成等)するとともに、クロスコンプライアンスの指導経験を有するテクニカルスタッフらが実際に農場に出向き農場管理の指導にあたった。こうした取り組みにより、導入当初25 戸であった認証農場は、2010年前後には約60戸に拡大、さらに、その2~3年後には80戸もの生産者が認証を取得するに至っている。
- 現在、組合内におけるGAPの管理・推進には、9名のスタッフが対応している。このうち1名は、品質管理責任者として、GLOBALG.A.P.やその他認証の管理業務、審査への対応を特化して行なう。また、残りの8名はテクニカルスタッフとして地区毎の技術指導を主業務としながら、認証生産者に対してGAPに必要な記帳や農場整備の現場指導を行なっている。
- また、GLOBALG.A.P.の審査は、生産者や施設を対象に4日間にわたって行なわれ、審査費用や認証取得費用は1回当たり約8,500ユーロを必要とする。それら費用についても、組合が負担している。
3) GAP導入による経営改善効果
- PATFRUTにおいて、GLOBALG.A.P.はあくまで国外大手流通との取引条件として認識しており、生産者の経営改善に寄与するという認識はあまりない。
- 継続取引の確立:GLOBALG.A.P.を取得することで、新しい顧客と取引が広まる可能性はあるが、もともと大手流通業との大口取引を基本としているため、取引先数、取引量はGLOBALG.A.P.導入前後でほとんど変化ない。また、取引単価についても、すでに取引のための最低条件となっているため変化はない。しかしながら、景気が低迷し、市場全体が縮小するなかにあって、安定的に取引を維持できている点はメリットとして受け止められている。
- 生産者の意識改善:生産者においては、GLOBALG.A.P.に取り組むことで、食品安全や環境保全、労働安全に対する意識は高まっている。とくに労働安全については、それまでほとんど意識することはなかったため、GLOBALG.A.P.の取り組みを通じて、自ら行なう作業に対し、労働安全意識が芽生えつつある。
- 生産者の負担と経営の合理化:GLOBALG.A.P.導入にともなう設備等について、組合は安価に整備する方法を提案するのみで、そのコストは生産者自らが負担している。また、生産者にとって記帳等は手間と感じられており、時間と投資の両面で負担となっている。長期的にみれば作業などが標準化されることで経営の合理化や後継者育成につながる可能性も考えられるが、短期的には負担感の方が強く、経営改善の効果はほとんど認識されていない。
4) 課題と今後の展開
- GLOBALG.A.P.は流通業者が生産者に要求する基準という認識されており、地域で生産者が主体的に取り組むような状況にはない。また、基準改定のたびに新しい項目が追加されるが、製造業のように容易、かつ短期間でオペレーションを変更できないため、生産現場での対応が困難となりつつある。