- イタリアでは、他のEU諸国同様、EU共通農業政策のもとでのクロスコンプライアンスによって、良好な農業や環境の保全を進めている。また、原産地名称保護といった品質保証制度により、国産農産物の競争力強化を進めるが、GLOBALG.A.Pに対する公的支援は特段実施されていない。
1) イタリア農業の概況
- イタリアの国土面積は3,013万haと日本の80%程度で、イタリア半島を縦断するアペニン山脈と北部に位置するアルペン山脈により条件不利地域が多く存在する(山岳地域35.2%、丘陵地帯41.6%)。また、日本と同様、高齢化の進展により、農家数は2000年からの10年間で約32%減少しており、2010年時点で162万戸(ISTAT)と日本の販売農家数とほぼ同程度である。農耕地面積は1,286万haと日本の2.8倍に及ぶが、1戸当たり平均規模は7.9haと欧州諸国のなかでは比較的小さい規模にある。
- しかしながら、イタリアの農業総生産額は481.7億ユーロ(2012:Eurostat)とEU全体の11.9%を占めており、EU主要農業国のひとつであるといえる。農産物貿易に関しては、輸出が305億ユーロに対し、輸入が396億ユーロとやや上回っている。輸入では主に穀類や畜産物、水産物、油脂等が占め、逆に、輸出は生鮮・加工野菜、果物のほか、パスタ等の小麦粉製品、ワイン、チーズなどが占めている。イタリアにとっては、農業生産と同時に加工を含めた国際競争力が重要な意味を持っている。
表4-1-1 イタリア農業の概況
※販売農家
2) クロスコンプライアンスの仕組み
- イタリアの農業政策は、他のEU諸国同様、EU共通農業政策(CAP: Common Agriculture Policy)に準拠して展開される。このCAPは大きく二つの柱から成り立っている。
- 第一の柱(1st Pillar)は直接支払である。直接支払は、価格支持制度の廃止にともなう所得減少を過去の支払実績に基づきながら、生産とは切り離したかたちで補填する仕組みである。加盟国が拠出した欧州農業保証基金(EAGF : European Agricultural Guarantee Fund)を原資として、2000~2002年の平均所得を基準に農家への所得補償が行なわれる。
- また、第二の柱(2nd Pillar)は、地域間の経済・生産条件格差を是正する農村振興政策である。これは直接支払を補完する政策で、農林業の競争力強化(Axis1)、環境と農村景観の改善(Axis2)、農村生活の改善と経済活動の多様化(Axis3)、そしてボトムアップアプローチによる農村経済と開発活動の結合(Axis4)を軸とし、欧州農業農村振興基金(EAFRD: European Agricultural Fund for Rural Development)をもとに支援が行なわれる。
- これら支援、とくに直接支払と農村振興施策のAxis2を受けるために、生産者はクロスコンプライアンスを遵守することが必要である。このクロスコンプライアンスは、環境や公衆衛生、動物福祉、良好な農業・環境条件に対するマイナス要因を抑制することを狙いとし、それらを向上させる農業を構築することを目的とした内容となっている。具体的には、EUの関連法令・指令等による即した18件の法定管理要件(SMRs:Statutory Management Requirements)と、地域にあわせて取り組む15件の良好な農業・環境条件(GAEC:Good Agricultural and Environmental Conditions)から構成される(表4-1-2)。そして、直接支払は、SMRs及びGAECの要件と国内の必須要件等を充たすことで支払われ、環境支払はそれら要件(水準)を上回る取り組みに対して支払われる(例えば、水路までの緩衝帯が3mとして規則が定められていたときに、5mの緩衝帯を設置すると、2m分の収入源を補う形で環境支払いが支払われる)。
- こうしたクロスコンプライアンスの実行に当たって、イタリア政府は、①クロスコンプライアンスにおける国内法の実行、②各国間調整への参加、③州や支払機関とのコーディネーション、④政策間の整合性の確保、⑤支払に関するルールとの整理などを行なう。また、州政府は地域条件を踏まえながら、GAECにおける各種基準、及びその支払い単価を設定する。なお、州政府は各地域の農業施策に責任を負うため、施策に係る財源の一部を共同負担している(Co-financing)。
- また、各種支援は以下のステップで支払われる。
- まず、①毎年、農業者は農協等にあるサポートセンターで支援の申請を行い、クロスコンプライアンスに同意する。その上で、②サポートセンターの指導の下で、自身の農業でクロスコンプライアンスとして何に取り組むべきかを理解する。そして、③クロスコンプライアンスに準拠しているか、各州の検査機関(Paying Agency)がチェックし、合格した場合にのみ補助金が支払われる。
- なお、審査は基本的に書類審査で行なわれるが、その他にも衛星画像による違反行為(野焼き、エロージョン、耕起時期等)のチェック(図4-1-1)、及び毎年1%のサンプリング現地調査などを実施している。
表4-1-2 クロスコンプライアンスの構成
図4-1-1 衛星画像による野焼の確認
3) GLOBALG.A.P.と政府の取り組み
- 欧州ではGLOBALG.A.P.が広く普及し、食品安全等に関するひとつの基準となっている。そして、それはEU域内の輸出において、競争力を強化するためのひとつの要素となっている。
- しかしながら、国内農業の競争力強化という意味であっても、イタリア政府および州政府は、生産者のGLOBALG.A.P.認証取得支援など、その普及に向けた直接的な取り組みは行なっていない。その背景には、GLOBALG.A.P.が民間の認証制度であり、かつ実態として大手流通業の取引基準として運用されていること等がある。国内の中小流通業者など、大手流通チェーン以外の取引では、必ずしもGLOBALG.A.P.は利用されておらず、公的資金を利用したGLOBALG.A.P.への支援が、一部企業の利益拡大・強化につながりかねないという認識があるためである。
- 一方で、EU・政府が進める環境支払とGLOBALG.A.P.は重複する点もある。そのため、農業政策とGLOBALG.A.P.の目指すところは一部合致し(ただし、100%合致するわけではない)、GLOBALG.A.P.のような民間の認証制度が、イタリア農産物の品質向上に寄与しているとの認識もある。さらに、生産者にとってみれば、環境支払に対応することで、結果的に、GLOBALG.A.P.の認証取得にかかるコストを補填することもできる。
- なお、競争力強化という視点で言えば、政府は有機農業の認証や、PDO/PGI(農産物・加工品等)、DOC/DOCG(ワイン)など原産地名称保護といった品質保証制度によりイタリア農産物の競争力強化に関与している。現在、有機農業生産者は4万戸を超え、PDO/PGIの製品は244銘柄、DOC/DOCGのワインは403銘柄を数える。冒頭で述べたように、輸出農産物の多くはこうした制度に則った製品が多くを占めている。