国内農産物流通業者(青果物)の事例

  • N社は青果物を取り扱う卸売業者で、近年、加工事業や産地開発事業、品質管理事業などの多角化も進めている。取引先である量販店からのGAP農産物に対するニーズは必ずしも高い状況にはないが、安全安心確保の一環として、契約生産者等への啓蒙推進活動を独自に進めている。

1) 組織の概要

  • N社は、青果物の卸売業者で、市場と量販店をつなぐ仲卸業を基本業務としている。近年は、産直志向の高まりや、仲卸が先細りするなかで、産地の生産者や出荷団体と連携を進める産地開発事業や、量販店向けカット野菜等の加工事業、さらに、仕分け配送を行なう流通事業、残留農薬分析や土壌診断等を行う品質管理事業など、事業の多角化を進めている。

2) 生産物の調達・販売におけるGAPの位置づけ

  • 現在、取引先からのGAP認証農産物へのニーズは特段なく、N社としてもGAP農産物の取り扱いはない状況であるが、安全安心な青果物供給を目指す企業理念に則り、GAPに関する情報収集や、GAPの啓蒙推進活動を独自に行なっている。
  • とくにN社では、産地開発事業の展開とともに、社内におけるGAP指導者等の人材育成を行い、社内勉強会や契約生産者への講習会、また生産者からの要望に応じて現地指導・アドバイス等を行なっている。
  • しかしながら、現在のところGAPを取引要件とはしていない。その背景には、①必ずしも量販店のニーズがないこと、また、②そうした状況のなかでGAP取得を仕入価格に反映できないこと(生産者の要求に応えられない)、そして、③取扱量の関係からすべてをGAP農産物に切るかえることができないこと(GAP以外の生産物の位置づけが難しくなる)などの問題があるためである。
  • そのため、安全安心確保の取り組みとして、栽培履歴の収集や出荷前検査を基本としつつ、GAPは将来のひとつの手法として、現在の活動に取り組んでいる。
  • なお、取引の面からGAPの効果をみた場合、生産者において記録が保管され、従業員でもクレーム対応が可能となり、取引・産地管理が容易になるという効果がある。また、契約時には圃場図や計画書の提出を必要とするが、すでにGAPを導入している生産者では、それら必要な書類が整備されているため、契約がスムーズに行なえるなどのメリットがある。

3) 量販店のGAP に対する認識

  • 現在、量販店など取引先からのGAPに対するニーズは必ずしも高いとは言えない状況にある。とくに、GAP認証農産物に対するニーズはほとんどなく、仲卸という性格上、取引においては、価格とロットが最優先される。
  • ただし、業界全体を見渡した場合、量販店等においては、差別化の手段としてプライベートブランドを展開するケースが増えてきており、そのなかで「GAP的管理」を取り入れようとする動きがみられている。ここでいうGAP的管理とは、必ずしもJGAPやGLOBALG.A.P等の認証制度を指すものではなく、食の安全確保に関連したさまざまなGAPを意味している。基準はさまざまであるが、プライベートブランドとしての契約に際して、こうしたGAP的管理が必須要件となりつつある。
  • なお、量販店では、要件に見合うGAPの産地を直接発掘することはなく、量販店と契約する既存産地においてGAPを要請するケースが一般的とみられる。