果樹作におけるJGAP導入事例-出荷組合Lの取り組み

  • L出荷組合はリンゴの出荷組合で、組合員の約半数に当たる27名でJGAP団体認証を取得している。L出荷組合では、組合員であるLA法人が核となり、地域の実情に合わせたマニュアルや管理体制の整備を進めてきている。

1) 地域及び組織の概要

  • 青森県のL出荷組合は、現在、組合員55名、約100haで組織されるリンゴの出荷組合である。組合員は、基本的に果樹作農家で、リンゴの他に、ナシやモモ、ラ・フランスを生産している。
  • L出荷組合は、集出荷を共同で行なうが、組合員がL出荷組合に全量出荷するケースは少なく、L出荷組合以外にも個々にネット販売や産地市場等に出荷している。そのため、生産者によっては、複数の出荷組合、産地市場に属しているケースもある。
  • L出荷組合では、内部にGAP部会を設置し、現在27名の生産者でJGAP団体認証を取得している。認証農場27戸のリンゴ作付面積は、55haで家族経営が中心となっている(法人経営1戸:以下LA法人)。リンゴの平均作付面積は、約2haで、最も多い生産者では4haを越えている。年齢別で見ると30~70代で構成され、50代が最も多い構成となっている。
  • JGAP認証農場の生産物は、他のものと分けて集荷し、地元の販売会社を通じて(販売委託)、主にGAP認証農産物を求める量販店に出荷される。

2) GAPの導入について

  • L出荷組合では、2006年に付加価値販売につなげることを目的として、JGAPの認証取得を開始した。
  • 2006年当時は、JGAP認証制度が開始されたばかりの時期で、団体での運営管理、認証取得に関する蓄積も少なかったため、まずは4戸の生産者で個別認証を取得した。しかし、当初から組合員全戸で取得することを目標としており、2008年には18戸で団体認証を取得し、2013年現在27名まで認証農場を拡大している。
  • L出荷組合では、JGAP認証農場の拡大のため、LA法人自らJGAP指導員、審査員資格を取得し、組合員の指導を行なってきた。団体認証取得に当たっては、まず組合内で勉強会を開催し、関心のある生産者を募った。そのため、GAP取得に関する合意形成はスムーズに行なえたものの、事務局や部下以内のマニュアルづくりに関して、それまでに参考となるものがなかったため、自ら1年をかけてL出荷組合独自のものを作成した。さらに、各生産者の農場整備に関しては、参加者で勉強会を開催しつつ、LA法人の指導員が生産者を回り、1年がかりで指導整備を進めた。
  • こうしたGAP導入過程において、組合員のLA法人自ら指導員・審査員資格を取得し、マニュアル作成や指導に当たったことで、①指導に係る経費節減、②リンゴという特殊な作物にあわせたマニュアル作りが可能となった。また、審査員として、他の生産者・地域のGAP取り組み状況を見ていたため、それらの良い点や管理方法を取り入れながら、組合員に分かりやすいマニュアルや帳票づくりを進めた。
  • 現在、L出荷組合では、JGAP以外の認証等は取得していない(ただし、生産者個々の取り組みは別)。また、販売面において、必ずしも値段に反映されているわけではないが、営業面において、ひとつのウリとして活用している。しかし、実需側からすると、GAPの認証よりも残留農薬や放射能検査のほうに関心が高いのも事実である。
  • さらに、過去に輸出を行なった実績もあるが、台湾、香港、中国等アジアへの輸出に関しては、とくにGAPを求めるニーズはない。ヨーロッパへの輸出となれば、GAPが必要になるが、現状、ヨーロッパへの輸出はそれほどメリットがない状況である。

図2-12-1 L出荷組合におけるGAP推進体制
図2-12-1 L出荷組合におけるGAP推進体制

3) GAPおよび農場の管理体制

  • 現在、L出荷組合では、LA法人が事務局を務めるとともに、内部審査と指導を担当している。LA法人では、審査員4名と指導員6名を有し、組合内のGAPに関わるすべてをサポートしている。最初は、審査員・指導員が少ないなかでの取得であったため、その負担が大きかったが、審査員・指導員の増加とともに負担は軽減し、現在の認証農場数においても充分に審査・指導をこなすことができている。GAPの運営管理に当たっては、ほぼ組合内で完結しており、現在のところ外部機関等との連携はとくにない。
  • GAPの記帳に関しては、独自に作成したフォーマットの帳票を、マニュアルとともに組合員に配布している。記帳した帳票は、農薬・肥料散布作業の終わる8~9月に事務局に提出し、記載内容を事務局で確認した上で、2年間保管する。また、JGAPに必要な帳票以外にも、これまでに作業日誌の提出を求めていた。作業日誌の記帳は、組合員に記録することを習慣付けてもらうことを目的としたものである。
  • こうした記帳類は、現在のところ個々の組合員の生産管理改善等に使用することはほとんどない。出荷組合として、農薬や肥料等栽培方法の統一を目指す方向も考えられるが、組合員にとってL出荷組合は、出荷先のひとつという位置づけになるため、それぞれ栽培技術や防除暦等の情報収集を行い、組合員個々の栽培方法をとっている。また、収量向上や品質向上については、GAP部会よりも、組合全体として情報交換する内容であり、GAPとは直接的な関係にはない。出荷組合として、個々の選果データを組合員にフィードバックしており、組合内で優良農家の栽培方法等を情報交換するなどの取り組みが行われている。

4) GAP導入による経営改善効果

  • 継続取引の確立:GAP認証農産物について、量販店等からのニーズは高まっているが、必ずしも単価に反映されている状況ではない。ただし、GAP認証農産物を出荷することで安定的な取引関係が構築できている。
  • 資材在庫の削減:資材在庫台帳の記録により無駄な資材購入が削減でき、コスト削減にもつながっている。GAP導入前は在庫管理が徹底されず、資材の重複購入なども生じていた。
  • 作業の安全性:作業の効率化等に関して、あまり改善はみられない。組合員の多くは家族経営で、作付面積も2ha程度であるため、効果は現れにくい。逆に、記帳や管理の手間など作業時間はかかっているものと思われる。同時に、収量や品質に関しても、作業管理の徹底による効果よりも、天候等に左右されるところが大きく明確な効果は感じられていない。作業面に関して言えば、農場整備が徹底されることで安全面の改善が進んだことが挙げられる。

5) 課題と今後の展開

  • 青森県のリンゴ生産者は、複数のチャネルの選択肢があり、その時々の価格や条件を判断して、出荷先を決定することがほとんどである。L出荷組合も、そうした出荷先のひとつであり、必ずしも組合員全員が高いモチベーションを維持しているわけではない(事務的に取り組む生産者や、1年で中止する生産者も存在する)。GAP認証農場の拡大にあたっては、生産者の理解を深めるとともに、販売単価の向上などGAP取得によるメリットを明確にすることが必要である。
  • また、認証農場拡大の障害として、リンゴ特有の共同防除体制が挙げられる。認証を希望する生産者であっても、地域の共同防除に参加する他の生産者がGAPの管理を実践しなければ、認証を受けることができない。そのため、GAP認証農場の多くは共同防除組織単位でGAPの取り組みに参加するなど制約を受ける状況にある。GAPの普及においては、地域や品目の特性に合わせたGAPのあり方も検討が必要であると感じている。