果樹作における産地・都道府県GAP導入事例-産地Jの取り組み

  • J産地は2市にまたがるナシの広域生産団地である。生産者が主体となった共販体制のもとで、独自のGAPを策定し、その啓蒙普及活動を進めている。管理項目の改良やチェック体制の構築等を進めながら、徐々に生産者への理解浸透と意識改善を進めている。

1) 地域及び組織の概要

  • 富山県のJ産地は、2市にまたがるナシの広域生産団地で、丘陵地にある畑地帯と平坦部の水田地帯に広がっている。当該地区のナシ生産は昭和40年代頃より拡大した後、平成元年頃をピークに高齢化等が進行している。
  • 平成25年度の栽培面積は148.7ha、栽培戸数は292戸となっている。また、生産者の多くは兼業農家や高齢農家で、専業農家であっても60代以上が8割を占めている。平均栽培面積は、50代の専業農家で2.0ha前後、兼業農家や高齢農家で40a前後である。栽培品種は幸水を中心に(70%)、豊水(17%)、新高(9%)、あきづき(3%)が占めている。
  • 生産量のうち約1/3は農家庭先直売として販売され、残り2/3は地区全体の共販体制により、県内市場および関西、中京圏の市場に出荷される。共販は地区内のJB農協を通じて行われるが、選果場(JB農協内)の運営(管理・作業・事務処理等)は、地区内の各生産組合、果樹組合で結成した連合会より選果場運営委員を選出し、実質的に生産者自身で行われている。
  • J産地では、平成17年度より産地活性化委員会を立ち上げ、産地の維持活性化に取り組んでいる。産地活性化委員会は、行政機関(県、市)、JA・全農、および生産者の代表等で構成され、中期計画を策定して、生産、流通、担い手対策を講じている。産地活性化委員会では、これまでに改植の推進や選果場の合理化、産地のPRイベント等に取り組んでいる。

2) GAPの導入について

  • 富山県では、平成23年度に県GAPを策定し、平成24年度よりその活動を進めているが、J産地では平成20年度より産地活性化委員会内にGAP推進チームを設置し、GAPの推進に当たっている。
  • GAP推進チームは、選果場代表、各生産組合代表、農協営農指導員(JB農協、JC農協)、普及センターの18名で構成され、事務局を普及センターが務める。選果場や生産組合の代表者を構成メンバーとすることで、生産現場に即したGAPの推進と生産者自身の主体的な取り組みを促すことを狙いとしている。
  • 管理項目やチェックシートの策定に当たっては、当時の基礎GAPを参考に策定し、毎年、推進チームの検討を踏まえて改良を施している。また、県GAPの策定後には、その中から産地に適合するものを抜粋し、適用している。現在(平成24年度)の管理項目は、①栽培準備(計画や圃場整備等)、②裁判管理(農薬・肥料の使用)、③収穫・調整・出荷、④全般(記帳や農場整備)に関する23項目である。
  • また、J産地ではGAPの推進にあたり、生産者に対する現地研修会の実施や、生産者の意識向上と市場・消費者へのPRを目的としたGAP取り組みチラシの作成(出荷箱、販売袋に同封し配布)等を行っている。

3) GAPおよび農場の管理体制

  • GAPチェックシートは生産者全戸(292戸)に配布し、管理項目ごとにチェックした日付や改善点等に関するメモ書きを記入するようにしている。配布後は、毎月配布する栽培情報にて、GAPチェックシートの確認と記帳を促すとともに、チェックシートの一部回収を行っている。回収したチェックシートは、GAP推進チーム内に設置した内部監査チーム(生産者代表、選果場代表、JA、普及センターの12名で構成)で確認し、GAPの取り組み状況や問題点の把握を行うとともに、取り組み状況に関する評価票(A~Dの4段階評価)を生産者にフィードバックすることで、GAPへの取り組み意識向上を進めている。
  • また、J産地では、GAPチェックシート以外に、栽培履歴の記帳・回収を行っている。栽培履歴は、GAPの取り組むよりも前から実施しており、施肥、防除、収穫等の作業記録を記帳し、共販出荷において生産履歴の提出を必須条件としている。
  • 栽培履歴は作業記録の管理として用い、GAPチェックシートは生産工程管理における問題点の把握とその改善を促すことを目的としている。

4) GAP導入による経営改善効果

  • 兼業農家や高齢農家などさまざまな生産者がいる中で、全ての生産者が高い意識をもってGAPに取り組むことは難しい状況にあるが、少しずつGAPに対する理解も進んでいる。
  • たとえば、農薬や肥料の使用・保管に関する注意事項の事前確認や農機具等の整備点検の実施が、以前に比べて徹底されるようになった。また、現地研修会のなかで、実際の園地を見ながら危険個所の確認とその改善に関する実演研修(改善方法と効果の説明)を行うことで、作業安全等に関する意識向上が芽生えている。

5) 課題と今後の展開

  • J産地では、独自GAPを策定し、生産者全戸での取り組みをめざし、普及活動を進めてきた。また、管理項目の改良やチェックシートの回収・内部監査を実施するなど、日々改善を進めてきている。そうした取り組みにより、生産者のGAPに対する理解や意識は徐々に浸透してきているものの、さらなる取り組み内容の充実が求められる。しかしながら、前生産者のチェックシート回収・確認、さらに農場や園地の現地確認を、推進チームメンバーだけで行うことは現実的に困難である。GAPのさらなる啓蒙普及に向けた取り組みが今後の課題である。