野菜作におけるJGAP導入事例-法人経営Eの取り組み

  • 岩手県にあるE社は、2007年という早い時期からJGAPとGLOBALG.A.P.認証を取得している野菜作の農業生産法人である。当初は、会社の知名度向上のために認証を取得したが、GAPはコンプライアンスとして、農業経営をする上で最低限守るべきものと考えている。E社は新規就農者の受け入れにも積極的であり、GAPという指針があることで新規就農者への対応もスムーズにでき、彼らの独立をサポートしている。

1) 地域及び組織の概要

  • 岩手県の有限会社E社は、2003年に設立された野菜作の農業生産法人である。経営者はもともと養豚を営むかたわら、青果卸を行っており、1998年ごろより生協との取引を開始、さらに取引を拡大するなかで徐々に野菜作へシフトし、2002年に養豚を中止し現在の法人を設立した。
  • 経営面積は、ハウス0.87ha(30棟)、露地野菜2.4haで、主にゴボウ、小松菜、ホウレンソウ、水菜、ニラ アスパラガスなどを栽培している。現在、役員4名、従業員16名(うち正社員4名、研修生1名含む)で構成され、従業員の年齢構成は20代~70代と幅広い。なお、研修生に対しては独立就農を支援しており、これまでに独立した生産者とともに生産物の出荷を行っている。
  • 農産物の販売先は、生協への出荷が約半分を占め、残りは外食企業や市場に出荷される。また、近年はごぼうの千切りやごぼう茶など農産物加工にも取り組んでいる。

2) GAPの導入について

  • E社におけるGAP導入は、まず2007年に、生協版のGAPを導入したことに始まる。当時、生協版GAPの導入検討されており、その時、生協の代表的立場であったE社で試験的に導入することとなった。
  • また、同じ2007年にJGAP認証制度が始まり、GAPに取り組むなら認証を取得して差別化を図るという狙いでJGAP認証を取得する。さらに、GAPに関する情報収集をすすめるなかで、国内認証事例のなかったGLOBALG.A.P.の存在を知り、新規参入であるE社にとって知名度を高める良い機会になると思いGLOBALG.A.P.認証も同時に取得している。
  • E社ではさまざまなGAPに取り組んでいるが、生協GAPでは○✕式で与えられた基準をクリアすればよいのに対し、JGAPなど認証制度では自らでマニュアルを作成して取り組む必要があった。そのため、自ら作業工程を精査しながらリスクを抽出してマニュアルを作るなど、それまで意識しなかった考え方、作業が必要であった。しかし、最初は販売面を目的として導入したGAPであったが、自ら考え、経営を見直す作業を進めるなかで、GAPが生産者のためのものと実感するようになり、より積極的に取り組むようになった。
  • JGAPの導入においては、日本GAP協会からの指導を受けながら、自ら指導員資格を取得して準備を進めた。とくに、帳票類の作成に関しては、農作業未経験者の従業員でも記入・整理しやすいようにすることを心掛け、常に従業員の意見を取り入れながら、認証取得後も改良を繰り返してきている。さらに、審査過程における審査会社とのやり取りのなかで、GAPの理解やさまざま情報が得られ、具体的取り組みの改善につながっていると感じている。なお、JGAPとGLOBALG.A.P.の審査は同時に行なっている。審査費用は、合計24~25万円程度で、これまでに審査を繰り返しているため、農場のシステムを理解してもらえスムーズに審査を行うことができている。
  • また、GAP導入に対する従業員の合意形成について、E社ではとく大きな問題は生じていない。導入前には一度説明会を実施したが、必ずしも従業員全員がGAPを充分理解している様子ではなかった。しかし、記帳などのやり方を指示していくなかで、日常業務という感覚で取り組んでいる。GAPを全て理解できていなくても、従業員がマニュアルどおり実施することで、経営としてGAPを実践することができている。
  • 現在、E社では販売においてGAPをとくに活用はしていない。また、GLOBALG.A.Pを取得するものの、輸出などの取り組みも行なっていない。しかし、新規の取引打診が増えるなど、GAP取得により知名度や信頼向上に効果が現れていると実感している。

3) GAPおよび農場の管理体制

  • E社におけるGAPの推進体制は、会長が統括的立場に立ちながら、以前勤めていた会社で毒劇物の取り扱いやISOの管理に携わっていた別の役員1名が主導的立場に立ってGAPの導入や管理(肥料・農薬管理責任者等)を行なっている。
  • また、農場の全体的な管理は、会長と社長が中心となって行なう。販売計画と生産計画の策定は、取引先のニーズを把握しながらの作業で、日々取引先と付き合いのある者でないと判断が難しいため、毎年12月に会長と社長の二人で計画を検討し、作成する。また、施肥設計については、作付のたびに土壌診断(微粒要素)を行い、その結果をもとに会長が設計を行う。
  • 日々の人員配置については、社長と農場長で検討を行ない、社長が従業員に指示する。さらに、農場長はトラクター等の機械やハウスの補修など機械や施設の管理も行う。栽培管理は、ハウス毎に担当者を決めてそれぞれに管理責任を与え、会長をはじめ全員で生育状況を確認する。
  • 作業管理について、以前は、外出先から電話や口頭で作業指示していたが、指示が曖昧になってしまうこともあり、現在では作業指示書を作成するようにしている。作業指示書は社長が日々作成し、従業員は指示書に沿って作業を行った後、その作業記録を記入(指示書に記入欄)するようにしている。さらに、記入した作業時間は原価計算に用いている。
  • その他、データの記録・活用については、GAP導入以前から、単収や生産量、販売量などのデータを細かく記録、整理している。もともと流通業に携わっていたため、取引の上では、価格や取引量の変動を把握することが必要だと感じており、納品先別の販売数量などを細かく分析することで、販売戦略や生産計画を緻密に検討している。

表2-5-1 E社の農場管理体制
表2-5-1 E社の農場管理体制

4) GAP導入による経営改善効果

  • 取引先に対する信頼向上:GAPによる取引先からの直接的な引き合いはないが、GAP認証取得により知名度と信頼度の向上につながっていると感じている。たとえば、新規の取引先から、農場現場を見ずに注文を受けることがある。こうした新たな取引拡大は、GAPの認証によりE社の農場管理・栽培管理が信頼されていることが大きいと感じている。
  • 作業管理や生産管理の効率化:GAP導入により、農場が整理され、農薬の管理など無駄が省かれるようになった。また、細かなデータ取得を実践することで、施肥コストの削減などが実現できている。さらに、GAPのような体系的な基準があることで、規模拡大や消費者ニーズ(たとえば放射能検査等)への対応にしても、具体的にどうすればよいかということを迷うことなく取り組めるようになった。
  • 従業員の育成、意識向上:栽培方法などは独自のものとして必要だが、GAPという指針があることで、新規就農者の受け入れ、独立をサポートが可能となっている。GAPはコンプライアンスとして農業経営をする上で最低限守るべきものである。GAPに取り組むことで、新規就農者においても、農業経営の基礎を学ぶことができる。さらに、従業員においては、GAPに取り組むことで、自社の農場とその生産物に対する自信につながり、E社で働くモチベーション向上にもつながっている。

5) 課題と今後の展開

  • GAPの取り組みを繰り返すことで、どうしてもマンネリ化することもある。しかし、GAPの認証審査を行うことで、そうした自身の気の緩みに気づかされ、GAPの理念を思い起こさせられる。審査にはコストもかかるが、情報や刺激が得られ、GAPへの意識を維持・向上することに大きく寄与している。