水稲作におけるGLOBALG.A.P.導入事例-総合農協Cの取り組み

  • 山形県の中山間地域に位置するC農協の酒米部会では、取引先からの要望をきっかけとして、JGAPおよびGLOBALG.A.P.認証取得に取り組んでいる。C農協では、生産者が主体的となる取り組みを進めながら、取引先等との連携体制を構築することで、GAPの導入・維持が図られている。

1) 地域及び組織の概要

  • C農協は、山形県の中山間地域に位置し、稲作を中心としながら、環境保全型農業の推進や、もち米、酒米など加工用米の取り組みを積極的に進めている。酒米については、20年以上の取り組み実績を有し、作付面積約180haと県内一の酒米産地として確立している。
  • C農協では、酒米を含む加工用米の推進に当たり、稲作推進協議会を設置するとともに、協議会内に酒米、もち米、業務用米、飼料用米など品目毎の部会を設置して、各種研修や契約先との検討、ブランド化に向けた取り組みを進めている。
  • 酒米部会については、現在79名の生産者が参加しており、1戸当たり平均作付面積は約2.2haである。このうち、一部のメンバー21名でGLOBALG.A.P.認証を取得している。
  • 酒米は倒伏リスクも高いが、経営的なメリットが大きいため、地域の担い手層や若い農業者が取り組んでいる。C農協における酒米の流通は、全農、卸売業者CAを通じて、酒造会社CBへ出荷している。

2) GAPの導入について

  • C農協の酒米部会では、2010年10月に34戸でJGAP団体認証を取得した。そして、2013年1月にGLOBALG.A.P.団体認証を27戸で取得、その後、高齢農家など酒米の栽培を中止する生産者もおり、2013年11月現在では、21戸でGLOBALG.A.P.認証を取得している。
  • C農協がGAPへ取り組み始めた経緯は以下の通りである。
  • C農協では、6年前ほどよりCB社との取引を開始し、2009年には農商工連携事業に取り組むなど、連携を含めながら取引量を拡大してきた。それともなって、CB社からGAP導入に対する要望があり、JGAP認証取得の準備を開始した。C農協では、2009年11月からGAPに関する説明会を行い、2010年4月にGAPに取り組む意向のある生産者を募集した(募集の結果、45名の生産者から取り組み意向)。GAPの導入にあたっては、生産者が主体的に取り組むよう地区ごとに5つの班体制を整備し、それぞれ班長(生産者)がリーダーとなって勉強会等を実施していった。また、その過程で、生産者代表、C農協、CA社、CB社、コンサルタント会社、県、町、全農で構成されるGAP推進委員会を立ち上げ、外部機関からの支援・指導体制を整備し、とくにコンサルタントからは、GAPの理解促進や帳票類の作成に関するサポートを受けている。
  • 2010年10月にJGAP認証取得した後、2011年の冬にCB社からGLOBALG.A.P.の取得に関する要望があり、2012年3月の役員会でGLOBALG.A.P.認証を取得することを決定した。GLOBALG.A.P.の導入にあたって、細かな管理項目の違いはあるものの、JGAPで取り組んできたことがほぼベース(基本的な考え方、管理項目)となったため、それほど大きな問題は生じなかった。
  • GLOBALG.A.P.認証農場で生産される酒米は、CB社における差別化商品の原料として使用されており、他への販売や輸出等は現在のところ行われていない。また、生産者によって主食用米を生産するケースもあるが、現在のところそれらをGLOBALG.A.P.認証のものとして差別化販売するには至っていない。

表2-3-1 GAP認証取得の経緯
表2-3-1 GAP認証取得の経緯

図2-3-1 C農協におけるGAP推進体制
表2-3-1 GAP認証取得の経緯

3) GAPおよび農場の管理体制

  • 現在、事務局をC農協が務めるが、生産者個々への対応には限界があるため、導入当初の班体制を維持しつつ、それぞれの班長・副班長が個別の巡回指導を行うなど、個々の生産者への対応を行っている。
  • こうした生産者による取り組みを主体としながら、内部監査については、推進委員会メンバーでもあるコンサルタント会社やCA社が実施、さらに、CA社からは毎年栽培指導と合わせて、GAPに関する講習会を受けるなど、外部機関との連携体制が構築されている。また、CB社からは、GAPの取り組みに必要な審査やコンサルタント派遣等に対する全面的な資金援助を得ている。
  • さらに、外部機関との連携は、GAPのみにとどまることなく、品質向上に向けた栽培方法の検討や技術指導(毎年の講習会等)を受けている。

4) GAP導入による経営改善効果

  • 継続的な取引と有利販売:GAPに対応することで、CB社との継続的取引が可能となり、これまでに酒米の出荷量拡大を実現している。また、CB社への有利販売や支援により、GAP認証取得に係るコストを販売に転嫁できている。
  • 品質の向上:GAPの取り組みとは直接的に関係ないものの、GAP導入に合わせた外部機関から技術指導により、酒米の品質のばらつきが減少してきている。
  • 作業・生産管理の効率化:記録を実施することで、その年の成果を把握でき、さらに次年度の計画を立てやすくなるなどのメリットが生じている。また、農薬や資材について確認して使うようになったため、無駄な使用はなくなっているが、生産性やコスト低減など、明確な技術向上はあまり実感されていない。
  • 生産者の意識改善:安全・安心と合わせて、環境への関わり方について意識が変わってきている。たとえば、畦管理において除草剤の使用を控えるようになっている。

5) 課題と今後の展開

  • 現在、CB社からのGAPに対するニーズは強く、高齢農家が多く占める中でいかに生産量を維持するかが課題となっている。一方で、CB社以外からのGAPに対するニーズがないのも現状である。GAPそのものが海外の商慣行をもとにしたものであり、国内の消費者ニーズ、実需者ニーズとかならずしも合致していない部分もあると感じられている。
  • C農協では、CB社との連携を基盤としながらGAPへの取り組みを進めるなかで、その取り組みは生産者自らにとっても必要なものと感じている。GAPの認証維持には、その費用負担をいかに軽減できるかが重要であるが、これまでに蓄積したGAPのノウハウを活かしつつ、将来的な必要性も踏まえながらGAPに取り組む意向を持っている。